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めざすのは懐かしい未来。米、集落、人づくり~注連川の糧~

プロフィール

土井義則さん(58、平成27年インタビュー時)、大工。40歳の頃、親から田んぼを引き継ぎ本格的に米作りを始める。平成17年注連川の糧を設立。有機米販売の他、頑固おやじの激辛唐辛子等の加工品も作っている。

土井さん

(注連川の糧代表・土井さん)

団体の概要

もともと注連川は小さい田んぼがたくさんあったんだよね。それが20年前、国の圃場整備事業で一気に集約された。工事が終わったら明るい農村が待っている、とみんな希望を持っていたんだけれども、自分は圃場整備の役員をやる中で、本当にこれが良いのか、と疑問を抱いていて。工事の終わる頃には、田が減り、人のいらない農業をめざすと里が滅びるんではないかと危機感を持ち、周りに呼びかけを始めたんです。そうして平成17年8月に注連川の糧を設立しました。
当時のメンバーは9軒。ちょうど私の住む旧六日市町と旧柿木村が町村合併した頃で、柿木村がずっとやってきた有機農業を知ることになりました。そこで指導をしてもらおうと地域の人達に集まってもらったんですが、聞いても有機農業の方法なんて話してはくれない。もっぱら「どうして有機農業なのか」といった根本的な話を聞かれたね。
そんな話を聞くうちに、注連川の糧ではお米に付加価値をつけ、JAを通さず米屋と相対でつながることを目指す方向を探り出しました。農家は農協倉庫の前でお米を卸したらそれで売れたと思い込むんですよ。自分の作った米を食べる台所の姿が想像できない。だから農薬をいくら撒いても抵抗が無くなる。そうではなく、農家という職業は町の人の命を預かっている仕事。それを生産者も消費者も理解するには、直接食べる人と繋がることが大切で、それが実践できるのが、相対販売だったんです。
米づくりは種、機械、税・・・コストがたくさんかかるんだよね。それなのに米は川下(消費者)が相場を決める。今年(平成26年)、米の価格が大幅に落ちたけれども、それじゃあいくらやってもコストを回収することすら難しい。そうではなく、自立して作りたいように作り価値を決めていく、再生産可能な仕組みを作りたかった。日本は大穀倉地帯ではなく、山を削ってわずかな農地で食料を生産しているよね。そこで農業が成り立つ仕組みを作らなくてはいけない。その答えが有機農業でした。最初は大変なこともあったけれど、理解のある米屋さんに出会い相対販売をスタートさせ、現在は10軒の農家でやっています。


注連川の糧のお米

(注連川の糧のお米)

現在の取り組み

注連川の糧では農業は自然の一部なんだということを知ってもらう為に、米づくりの現場を知ってもらうイベントも開催しています。稲刈りの時期には田んぼのはで干し講習会。地域で長年農家をやってきた方に講師をお願いしている。一枚の田んぼを全部手で刈り、天日で乾燥させるんだけど、それを機械で刈って乾燥機で乾燥させることにしたら糧だけでも1,000Lを越える灯油やガソリンが必要になる。でも、はで干しはお日様の力で乾燥させるので、その燃料が必要ない。とってもエコロジーな技術なんだよね。けれどその分手間がかかる。先人の知恵ってすごいよね。今から先は燃料がどうなるかわからないからね。

田んぼの生き物調査では子どもたちが田んぼの中にいる生き物を調べ、里の自然環境の豊かさを学んでもらいます。吉賀町の田んぼではレッドデータリストに載っているような生き物が普通に見つかる。農業って自然の中の一部なんだよね。子ども達に、そんな小さな命をつないでいる農業なんだということを理解して欲しいな、と思ってる。今まで沖縄、長野、大阪、東京・・・色んなところから参加者が来た。農業を理解して欲しいというのもある。けれど、それよりも子ども達が田んぼに泥だらけになって入るということを体験する、それ自体に意味があると思うんだよね。体で覚えて大人になった時に記憶に残っていることが大切だと信じてやっているね。

田んぼの生き物調査 はで干し

(田んぼの生き物調査(左)、田んぼのはで干し講座(左))

想い

農業は甘えられる世界ではないんですよ。だけど自尊心を持って生きることができる。例えば機械を整備することは想像ができるし単純化できるけれども、農業はそうはいかない。けれども、作るものは生きていくものなんだよね。生きていけるものを手にすることができる。それが恰好いい。誇りの持てる職業なんだということを子ども達に見せていく。それこそが農家としての生き甲斐だと思っています。

効率の先に豊かさは見いだせない。大規模農家が栄えて村が滅びるのはおかしい。人を増やし、手間をかけてできるだけ自給を目指す。生き物や自然と共存する。それこそが理想ですね。思い描くのは、人が大勢いる注連川の地。人がたくさんいる集落にしたい。これから注連川に住みたいという人がいたら、農地を分けてもいいと思っているよ。農家も消費者も幸せ、幸福感と誇りを持って生きていく、そんな集落を目指したいね。

注連川の糧ポスター

(注連川の糧ポスター)

伝えたいこと

農家を誇れる仕事だと次世代に見せていくこと。それこそが集落を維持継承していくことの原点なのかもしれません。